歯の健康が健康寿命をのばす
Health
口腔機能の向上が健康寿命をのばす
平均寿命がのび続けている日本で、注目されている言葉が「健康寿命」です。
健康寿命とは、簡単にいえば「健康に過ごす期間」のことです。継続的な介護や支援を必要とせずに日常生活を送れる期間を指しています。
平均寿命と健康寿命の差である「不健康な期間」は、現在男性で約9年、女性では約12年です。
この期間の短縮に大きく影響するのが、口腔機能であることがわかっています。
「噛むこと」「飲み込むこと」「会話をすること」に代表されるお口に関係する機能は、全身の健康にもつながっています。
例えば咀嚼能力の低下は、しっかりと食べ物を噛めないことから、消化器に負担をかけます。そればかりか脳の活動低下をもたらし、認知症の発症や重症化に影響しているとされています。
また歯周病は心臓病や糖尿病、脳血管障害など多くの全身疾患を悪化させることもわかっています。お年寄りが発症しやすい誤嚥性肺炎の原因菌は、実は歯周病菌なのです。
お口を健康に保って、健康寿命をのばしましょう。
健康維持は「オーラルフレイル」を意識して
「オーラルフレイル」という言葉をご存知でしょうか。オーラルは口腔のこと、フレイルとは虚弱のことで、「口腔機能の衰え」を意味しています。
老化によって自然と全身の機能は衰えていくものですが、口や舌を動かしづらい、飲み込みにくいなどといったオーラルフレイルは、食事量の減少につながり体力の低下をもたらします。また発音や会話にも支障を感じるようになり、コミュニケーションが不充分になっていくという社会的側面の問題も発生します。オーラルフレイルを放置することが、心身の衰えを加速させてしまうのです。
オーラルフレイル予防は、身体と精神両方の健康維持に影響するものとして、意識的に取り組むことが重要だといえるでしょう。
口腔機能低下すると衰えの悪循環に
オーラルフレイルの予防に積極的に取り組まないと、どういう事態が起こると考えられるでしょうか。
まず噛みにくさを感じる場合には、虫歯や歯周病、噛み合わせの不全という事態が考えられます。これらの治療を怠ると、最悪の場合、歯を失うことになりかねません。
歯を失うと硬い物を噛むことができなくなるので、食事は軟らかい食べ物中心となり、量も少なくなるでしょう。摂取する栄養、とくにタンパク質が減少して、筋力の低下を招き、体力の衰えが進んでしまいます。
飲み込む機能の低下も、食事量の減少から同様の事態が懸念されるばかりか、誤嚥性肺炎の危険性も高まります。
このようにオーラルフレイルは、全身の機能低下を招いてしまうのです。
オーラルフレイル予防は、意識的に取り組むことで衰えるスピードを緩めるだけでなく、口腔機能の回復も期待することができます。逆に、放置すれば老化が加速してしまう問題として、気を配る必要があります。
虫歯・歯周病は感染症!予防のポイントをしっかり確認
虫歯や歯周病は、多くの方が経験したことのある病気だと思います。いつの間にか歯のくぼみに黒く穴が空いたり、水がしみて痛くなったり。「きちんと歯を磨かないと虫歯になるよ」という注意がよくされますが、単に磨かないということだけが虫歯の原因ではありません。
虫歯と歯周病は、細菌が引き起こす感染症。この病気のメカニズムを改めてしっかり認識して、予防に役立てましょう。
虫歯はこうしてできる「4つの条件」
虫歯はどのようにできるのか、考えてみましょう。
まず必要なのは虫歯になるための「歯」です。歯質や歯並び、年齢によって、虫歯になりやすいかどうかには個人差があります。また唾液の量や性質でも変わってきます。
虫歯を直接的に引き起こすのは「細菌」です。とくにミュータンス菌が多いと虫歯になりやすいとされています。菌が繁殖するのは、歯間や歯周ポケットなどです。歯磨きが行き届かないと細菌は増え続け、歯を溶かして虫歯にしてしまいます。
歯磨きが不充分だと、口内に残った「食べ物」のカスが歯垢となります。この歯垢は細菌にとっても「食べ物」となる、虫歯になるための欠かせない条件です。ミュータンス菌は人間が摂取して口内に残した糖分によって繁殖するのです。
「歯」に「細菌」と「食べ物」が存在し「時間」が経過すると、虫歯になってしまうことは避けられません。
これら4つの条件を揃えないよう、正しいケアを行なって虫歯予防に努めることが大切です。
口の中だけの問題じゃない? 歯周病が全身に及ぼす影響
歯周病が認知症の引き金になる可能性も…?
歯周病になると歯肉が炎症を起こし、ブヨブヨとたるむ、出血するなどといった症状が出ます。そのまま放置すると、歯を支える骨まで炎症が及んで、歯が抜け落ちてしまう危険性もある、とても怖い病気です。
しかし歯周病の問題は、口の中だけに留まりません。
歯周病にかかっている患者は、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことが多くなることがわかっています。大腸がんの組織など、本来は歯周病菌が存在していない部位から検出されることもあり、全身疾患への影響が疑われています。
2019年には、アルツハイマー病患者の脳から、歯周病菌が排出する有毒な酵素が見つかったという論文が発表されました。現在この歯周病菌に由来する有毒酵素とアルツハイマー病発症の関係性解明、そして薬物治療の実験が進められています。
虫歯・歯周病予防は、日々のケアでコツコツと
歯ブラシにプラスアルファで効果倍増
歯のケアといえば、代表はもちろん歯ブラシですよね。でも、それだけで本当にしっかり口内を清掃できているでしょうか。
実は歯ブラシだけでは、6割ほどしか磨けていないとされています。歯ブラシの毛が届きにくい「歯と歯の間」「歯と歯肉の間」「奥歯の溝」といった部位もしっかり磨かなくては、細菌のエサとなる食べ物のカスが口内に残ってしまいます。
歯ブラシにプラスアルファしていただきたいのは、デンタルフロスや歯間ブラシなどのお口のお掃除グッズです。
デンタルフロスは、糸だけのものや持ち手がついたもの、弓形やY字型のものなどさまざまな種類が出ているので、ご自身が使いやすいものを選びましょう。
歯間ブラシも毛の材質や太さによって、バリエーションがあります。ご自身の歯間のサイズに合ったものを選択してください。
また、通常の歯ブラシよりもブラシヘッドが小さい「スポットブラシ」というものもあります。奥歯や歯間のお掃除用に、歯ブラシと使い分けてみるのも良いでしょう。
歯を強化してくれる「フッ素」
「フッ素配合」と表記された歯磨き粉などを、ご覧になったことがあると思います。
フッ素には歯質を強化する働きがあり、歯から溶け出したカルシウムなどが沈着するよう再石灰化を促します。虫歯菌が酸を生み出すのも抑制してくれる、虫歯に負けない歯にするための強い味方です。
スウェーデンでは虫歯予防にフッ素を活用し、子どものころから強い歯を育てています。
ダラダラ食べが虫歯を作っています
虫歯菌がどうやって歯を虫歯にしていくのか、ご存知ですか。
虫歯菌は口内に残った食べ物のカスをエサに、増殖しています。もっと詳しくいえば、虫歯菌は糖質を分解し、酸を生み出します。この酸が歯を溶かすのです。
アルカリ性の唾液の働きによって、口内は中性に保たれていますが、食事をすると酸性になります。酸性度合いと時間の関係は、このようにグラフ化できます。食事を始めてから約20分間ほど続く口内の酸性への傾きを「ステファンカーブ」とよびます。
何度も間食をしたり、ダラダラと食べ続けていると、このステファンカーブを何度も引き起こすこととなり、歯が酸で溶かされる危険性が高まります。
虫歯予防のためにはダラダラ食べることは厳禁です。当院では生活習慣の見直しやブラッシング指導などで、患者さまの虫歯予防をサポートします。
唾液検査も行なっているので、虫歯になりやすくて悩んでいる患者さまは、ぜひご相談ください。
歯の未来を支える定期的なプロのケア
食事の仕方や丁寧な歯磨きなど、患者さまご自身で虫歯にしない生活習慣を心がけくださることは、虫歯予防にとってもっとも大切なことです。
しかし歯や唾液の質などによって、どうしても虫歯になりやすい場合もあります。歯磨きをどんなに丁寧にしても、こびりついて残ってしまう汚れもあるでしょう。
そこで役立つのは、定期的な歯科医院でのプロのケアです。
歯磨きだけでは除去しきれなかった歯石や歯垢をクリーニングして、ツルツルとした歯にリセットすることで汚れをつきにくくします。自覚症状がまだない初期の虫歯・歯周病のチェック、磨きすぎや歯軋りなどでダメージを受けている箇所なども無いか、しっかり見ます。
ご自身だけでは気づきにくい口内の状態を、3ヵ月に1度を目安に確認することで、健康でいつまでも快適に噛める歯を維持していきましょう。